top of page

2019年8月27日記者会見でのあいちトリエンナーレに関する黒岩祐治神奈川県知事の発言に抗議しその撤回を求める声明

2019年8月27日に行われた定例記者会見の場で,黒岩知事は,記者の質問に答えるかたちで,「(『表現の不自由展』と)同じようなことが神奈川県であったとしたら、私は(開催を)認めません。」と発言しました。続けて「慰安婦像といったものは極めて政治的なメッセージであって、しかも事実を歪曲したような形での政治的なメッセージです。そういうこと自体が私はもうおかしいと思います。」と述べました。「事実を歪曲」とは何が歪曲されているというのかという記者の追及に対して黒岩知事は,「要するに慰安婦問題です。慰安婦問題でされているものに対する主張です。」「韓国の主張というのは、ある種一方的な主張であると私は思います」と答え,さらに「どういった主張が一方的なものなのでしょうか。」と追及された黒岩知事は,「強制的に連行していったような、そういうニュアンスで伝えられていますよね。」と答えています。


こうした黒岩知事の発言には,幾重にも問題点が交錯しています。


そもそも,慰安婦の強制連行は韓国の一方的な主張である,というのは誤った歴史認識です。1993年8月4日の「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」では,「戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。」と述べられているところです。そして,この談話については「安倍内閣でそれを見直すことは考えていない」と参議院予算委員会において安倍首相が言明しています。慰安婦の強制連行は韓国の一方的な主張であるというのが,独特な歴史認識であることは明らかであり,それを内心で信じるだけでなく,その歴史認識に基づいて記者会見で発言した黒岩知事の行動は公権力の担い手として,極めて不適切な行為です。


また,黒岩知事は通常の表現行為と政治的なメッセージとを区別し,後者であれば制限しても問題ないと考えているようです。しかし,通常の表現行為と政治的メッセージとを区別することは困難です。歴史は,言論が弾圧される中で,芸術のかたちで権力に対する抗議行動が行われてきたことを教えています。黒岩知事の言うように,政治的メッセージは制限しても構わないということになれば,権力者は自己にとって不都合な言論・表現に「政治的」とのレッテルを貼ることで抑圧することが可能になってしまいます。 


表現の自由は儚い権利です。だからこそ,歴史的に各国の憲法は,より強く表現の自由を保護しようとし,たとえば,事前に表現の自由を抑制することは禁止し,あくまでも事後的に不都合が生じたときに処理しようという態度を貫いています。典型は検閲の禁止です。今回,そのような表現行為が行われていないどころか,行われるかどうかも分からない「仮定」の問題であるにもかかわらず,慰安婦像のような表現行為を認めない,とした黒岩知事の発言は,表現の自由に対する侵害にほかなりません。


私たちは神奈川県に法律事務所を構える弁護士の団体として,不適切な歴史認識に基づいたうえ,表現の自由を侵害する黒岩知事の発言を看過することは出来ません。厳重に抗議するとともに,すみやかにこの発言を黒岩知事が撤回することを求めます。


以上


2019年9月2日

自由法曹団神奈川支部

支部長 森 卓爾

Recent Posts

Archive

Follow Us

  • Grey Facebook Icon
  • Grey Twitter Icon
bottom of page